EDELWEISS 04/14  1979.04.14

久しぶりに書いています。今回は先日行われました演奏会について書いてみました。

まず最初に。子安○○

 空が曇っていた。暖冬の朝らしい雲が、鉄灰色に空をおおっていた。
 午前8時25分。家を出た。社会教育センターまで徒歩で水道道をたどって行く事にする。薄茶のカバンが右手に重い。口をついて出るのは「かごにのって」の一節だ。
 センターの横で○○の兄が軽トラックの運転席から声をかけてきた。弟を送ってきたと言う。「がんばってな」別れ際の言葉が、耳に重い。本番だ、本番だ、と頭の中に反響する。
  視聴覚音楽室は掃除中だった。掃除婦の人が、みなさん図書室の方ですよ、と教えてくれる。いってみるとすでに数人の女の子がにぎやかに話をしている。サラリーマン風の中年男性が席をたって喧騒の支配する部屋を出てゆく。誰の表情も堅い。うわすべりのする空気の中で無造作に並べられている図書の配置の意味を考えてみたりする。落ち着かない、落ち着かない、どうも落ち着かない。
 午前9時20分。掃除が終わり練習が始まった。喉がいがらっぽい。余分な事に気が散っていく。馬蹄形に並んだ一方の端のソプラノ・アルトの誰も彼もが、変に情感的に見えてくる。理性が眠り、本能が強くせりあがってくるらしい。
 練習半ば、雨が降り出す。6月4日の合唱祭の日にも降っていた空は鉛色を深める。「ばら色の雲はくだけて」と歌が脳裏を走っていく。
 午前11時25分、練習終了。一階のロビーで昼食を摂りはじめる。雨はまだ降っている。40人近い男女が騒がしい分だけ、足元にポッカリと口があいているようだ。
 午前11時50分、雨中、やっとタクシーを見つけて乗りこむ。雨で道がけばだってゆく。車内のガラスが人いきれで、くもっていく。
 青少年会館ホールには一番のりだった。六百人収容できると言うホールは意外に小さい。舞台には黄色光が投じられている。折畳椅子が縦横整然と揃えられている。一体どれほどの人数をこの屋内に呼び込めるか? 市内では一応名のある今中合唱部を母体とするとは言え、今池混声は独り歩きを始めたばかりだ。演奏の良し悪しも重大だが、それ以上に客の入りが重要だ。開場まで一時間半ほどだ。雛壇を舞台裏から出して並べ終わると、嫌怠感が眉の上に重くなってゆく。あちこち走り回り忙しい風を装いでもせねば無人の客席の発する沈黙に引っぱられて処かまわずへたり込みそうだ。
 女性が着替えてきた。ワインカラーのスカートと白のブラウスは著しく目をひいた。同じような姿をしても一人一人工夫を凝らしている。だが、目を楽しませている時間は無い。この装いの現れたすぐ後には本番が訪れる。10mと離れていない最前列の客の顔は判別が効くだろう。知った人物もあるに違いない。本番まで一時間を切っている。演奏は三時間後には終わっている。その時にはOB会が今池混声と改名された真価が明らかになっている。やがて客席が暗くなった。40人の団員の中で練習しながら、自分の声しか耳にはいらず、孤絶の感はいよいよ深まる。口にこそ出さないが誰もが感じているようだ。喉元をネクタイがしめあげている。ライトが眼につきささり、けむたい様な顔になる。
 緊張で生あくびが出た。足がガクガクする。周囲に誰もいない様に感じ、同時にあらゆる視線が集まっている様にも思える。
  やがて緞帳が降りた。練習も終わり開場のアナウンスがはいる。舞台袖の覗き窓から見ていると客はポツリポツリやってくる。今中生が何か珍しい事でも起きるのかという顔付で座っている。何人来るだろう。思い当る処へどんどん連絡してみても、一人の知己など、たかが知れている。半数にも満たない客席を相手に唄うとなると、どんな気持ちがするだろう。
 生あくびがまた出た。もう、客席のうまり具合を見る気にもならない。何も彼も放り出して逃げたい気分だ。雨はまだ降っている様だ。とざされた舞台の中で腕時計もなく、時間の観念も喪失しかけていた。団員は勢揃いしていた。その向こう側に何が潜んでいるのか、と舞台からも客席からも縦横に視線を放っている。最後の注意がされる。口を大きく開くように。肩の力を抜くように。舞台慣れした人の顔からは何も読みとれない。ズボンのポケットには先程拾った輪ゴムがはいっている。客席からそんな物見える訳がないのに、拾わずにいられなかった。
 裏方が本番です、小声で合図をする。誰かがガッツポーズをすると、みんなが堅い笑顔でまねをした。
 アナウンスがはいった。
 つづいて緞帳のよごれた裏地の代わりに薄暗い客席が足元かの方から広がっていった。

演奏会が終わってもう、ずい分たつものね。でも、つい昨日のことみたいな気もしたりして…
 演奏会前までは練習、練習で家のお手伝いもしなかったんじゃないかな。「もう、今池混声なんてやめなさい」といわれない様に今までの分をうめあわせるつもりでしっかりお手伝いして下さいネ。
 とくに女子の人達はネ!
では、次回は会計報告と技術委員長からの長い長~いメッセージを送ります。 では、ばいば~い。

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